マクロスF

ヒロインの歌には特別な力があり兵器として利用されるという展開に、須賀しのぶさんのライトノベル『アンゲルゼ』を連想しました。
敵に影響する強力な能力はランカ(「女王」と呼ばれるのも似ている)、次々襲い来る試練はシェリルに近いかもしれません。
・学校でグループから仲間外れにされ悪口を言われ孤立
・仲直りしかけた友達が目の前で化物に変化(自分のせいだと悟る)
・心の弱さを指摘・批判される
・軍事訓練でみっちりしごかれる(昼食戻す、気絶して水をかけられる、平手打ちなど)
・戦場に投入され恐慌、怪我、暴走エトセトラ
・戦いの道具・実験動物扱い
・仲間の血を啜る(その際「化物の血を吸う化物」呼ばわりされる)
などなど、主人公への風当たりが須賀さんテイストに満ちています。
幼馴染との恋も描かれ、身体的にも精神的にも弱かった主人公が少しずつ強くなるのが印象的でした。

話を戻して……印象に残ったところ・熱いと思ったシーンを。
・全体通して華やかで美しい絵
圧倒される場面が多かったです。
・未来の文明の道具や設備
実際にあればいいなと思いました。便利そうです。
・絵の美麗さと近未来的演出を活かしたライブシーン
・凄まじい動きの機体や弾幕
「おおー! かっちょえー!」と叫びました。
・バジュラが道を開き、ブレラと共闘しながらの攻撃、メドレー
対立してきた相手や異種族と手を取り合う展開が大好きなので燃えました。

各キャラについて
アルト:水浴びしていた時のエフェクトに噴きました。姫と呼ばれるのはどうかと思っていましたが、殴られてもほとんど痕が残らない鉄壁の顔面力(?)で納得しました。美形度が高いとこうなるのか。ユーベルメンシュか?
飛ぶことや演じること、家庭と生き方の問題についてもっと掘り下げてもよかったと思います。
ミシェル:飄々として美味しいポジションにいる。ランカに苦言を呈した珍しいキャラ。後半もその調子で導いてほしかった。シェリルの曲を聞くと最期のシーンが浮かんできます。
クラン:可愛い。最初は戸惑いましたが、段々味が出てきました。漢女と書いておとめと読みたくなる。
ナナセ:ランカの信奉者その一。シェリルに対してはあまり好意的でなかったナナセをシェリルが庇ったのが印象的でした。
オズマ:ランカの信奉者その二。死亡フラグ乱立とそれらの叩き折り具合に驚きました。ランカへの度を越したシスコンぶりを除けば好ましく熱いキャラ。
ブレラ:ランカの信奉者その三。ランカ関連以外ではほとんど出番がなかったのが残念。アルトのライバルとして飛ぶことや戦うことに対する考え方、姿勢の違いが描かれてほしかった。
シェリル:いいキャラです。最初は傲慢で高飛車なだけかと思いましたが、優しさや脆さ、誇りと意地を見せながら這い上がる姿に惹かれました。
栄光からの挫折と復活は不死鳥のごとし。
彼女の『インフィニティ』が一番好きです。『ライオン』『(真空の)ダイアモンド・クレバス』『ノーザンクロス』も好きです。
ランカ:応援者・肯定者が多く、愛が過剰だと感じました。落とすところと上げるところのバランスがとれていたらもっと好きになったと思います。それと、命を落としたギリアムの事も忘れないでください……。
グレイス:いつの間にか諸悪の根源みたいな扱いになっていて少し同情したくなった。

・ランカ関連
サブの要素ではなくメインテーマに恋愛・三角関係がある以上恋愛色が強いのはわかりますが、こんな時にそんなことしてる場合かと思う場面が多かったです。
アルトのことを考えるのはいいけれど、他の人を顧みなかったり迷惑をかけたりするのは恋する少女では片づけられないと思います。無邪気と無神経、無責任は違うんじゃないか。
アルトへの想いを優先するならするで、苦しくてもアルトのために頑張り抜く、彼を思いやることを第一とするならばわかる。
しかし、人々が生存をかけて戦っている崖っぷちの状況で、バジュラに親友を殺されたばかりのアルトにこの子は悪くないと言ったのは……。他にもアルトの心境や都合は考えていないのかと言いたくなるシーンがありました。
シェリルも気まぐれだったり女王様だったり何だかなと思う場面はありましたが、彼女は自分にできること、やることを理解し実行しようとしているので応援したくなります。仕事への責任を持っていますし、引っかかるような部分は指摘・非難されています。
未熟でもワガママでもいいので、きっちり指摘・批判され、反省や成長につながれば好意的に見られます。

・苦悩・成長
歌うよう強要され、戦いの道具とされる苦悩や自身の持つ力への恐怖など、深みが出る題材だと思います。
描かれ方によっては非常に重く、考えさせるものになったと思います。
ランカの歌手としての成長については、成長というより地位向上、高速エスカレーターに乗っているイメージがあり、認められるのが速すぎるのではないか疑問でした。
アイドルとしての地位を確立したシェリルがいるのですから、同等の地位につけるより「地位や名声はないが歌への愛は負けない一少女」にした方が対比が効いたのではないでしょうか。
皆に救世主として讃えられることにギャップを感じ、注目されるのは兵器としてであって歌そのものではない、そんな心境で歌い続けねばならない、というならば悲劇性が出たと思います。
這い上がる泥臭さ、逆境に負けず進む意地といった熱さはむしろシェリルに見られます。
歌への情熱、執念も激しく、まさに歌姫の風格がありました。

・覚悟
ランカの歌によって甚大な被害が出、人間から見れば裏切りととられる行動をとった彼女が、たいして批判されず作中の人物から揃って肯定されていたのは引っかかりました。
多くの人々が命を落とした重みとキャラの思考のバランスがとれていない気がします。
シェリルは病気で苦しみ投薬を拒否してまで戦いの道具、しかも代用品として最大限の力を発揮しようとした。
アルトも「ランカの歌が人間を滅ぼそうとするなら彼女を殺す」という覚悟を決めた。
ランカは最後に恋も歌も頑張ることを決心していましたが、その前にやるべきことがあるだろうと言いたい。
そのへんが十分描かれた上で前向きになったのならば応援したくなったと思います。
終盤ではなく中盤で
・ランカの行動によって被害が出る(規模は小さめ、取り返しのつくレベルがいいかもしれない)
・己の力がもたらした惨状に苦悩するランカ
・異なる存在であることへの恐怖、人から理解されない孤独も描写
・人々から容赦なく批判される
・悩んだ末に答えを出し、周囲の称賛ではなく行動で覚悟を語る
・その姿が徐々に認められていく、批判していた人々も見直す
と段階が踏まれていれば、とても応援したくなったと思います。

個人的に異種族との共存が大好きで、橋渡しとなる存在を好ましく思います。
ただ、双方を巻き込み被害を出した事実への意識が薄く見える人物に訴えられても頷ききれません。
二人のメドレーをバックに戦う場面がとても熱かっただけに、人とバジュラの狭間の存在として上手く描かれていれば非常に盛り上がったと思います。

全体として、面白い分「ここがこうだったら……」と思う部分も出てくる作品でした。

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