クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲

映画の中でも特に好きな、オトナ帝国の逆襲について語ります。
※ネタバレを含みます。

大人たちが現在を捨てて過去に戻っていく姿は、静かだけれど恐ろしい。
あれほど家族を大切に思っているひろしもしんのすけに対して「あ? うっせーんだよ、ガキが」と睨み、「ガキがいたぞ! 捕まえろ!」と叫ぶ。会社に行けと言われた時の台詞やチョコビを食べ終えた時の子供みたいな態度が妙に生々しい。
みさえの「ネギ」に笑ってしまいましたが、彼女もしんのすけやひまわりのことを忘れてしまう。
洗脳されたように迎えに応じて行ってしまい、子供を捕まえようと行動するのが怖い。

スナックで語り合った後「酒のにおいに酔ったみたい」とあって、「においだけでそんな風になるのか?」と思いましたが、改めて観ると大人達もにおいによって心を支配されていたので「そういうことだったのか!」と思いました。

車を運転する場面では笑ってばかりいました。
虹と言えばメルヘンでロマンチックなものの象徴なのに、何故今回はリリカルさを感じないのだろう。いや、感じる方がおかしいか。

笑った後は一転、ひろしの回想へ。このギャップがたまらない。
タワーを上るシーンと並んで特に好きなシーンです。
音楽とも合わさって胸に沁みる。
少年の頃自転車の後ろに乗っていた彼が成長して家族を乗せる構図がいい。
出勤して、疲れて帰ってくると家族が待っている……そんな人生。
人によっては平凡、退屈と感じるかもしれませんが、ひろしにとっては最高の人生なんだと思えます。
印象に残ったやりとりは、最後の
「父ちゃん、オラがわかる?」
「……ああ」

誘惑を振り切って大切な家族がいる現在へ帰ってきた。
過去を振り返ることは良いのですが、逃げ込んで閉じこもるわけにはいかない。
それにしても、洗脳を解くほどの足のくささって……一体どれほど強烈なのだろう。
最臭兵器ひろし(の足)。

一応悪役の位置にいる二人の言うことや気持ちもわかる。
もう少し年をとればもっともっと共感するだろうな。
しかし、現在を受け入れずに捨ててしまうわけにもいかない。
いい思い出は励みになりますが、美しすぎると(美化しすぎると)身動きが取れなくなるのかもしれません。
懐かしすぎておかしくなってしまいそうだと泣きながら語るひろしが痛々しい。

ケンが未来を奪われないための方法を説明したのは色々考えさせられます。
あえて告げたのは、未来を掴もうとする姿を見たかったためか。
試したかったからなのか。
彼らが試練を乗り越えれば、捨てたもんじゃないと実感できる、生きなおす勇気を得られる……そう考えたのか。
この時点で彼は自分達が間違っているということを薄々悟っていたのかもしれない。心のどこかで止めてほしかったのか、とも思いました。

そして、最高に盛り上がるタワーの階段を上るシーン。
流れる曲の名は「21世紀を手に入れろ」。
ここまでしっくりくる曲名は少ない。
最初はひろしの回想で登場したフレーズが流れます。
「俺は家族とともに未来を生きる!」と断言したひろしも、最初は過去に生きることを選んだ。
ケンとチャコは、ひろしならば自分たちの気持ちを理解し、一緒に過去の中で上手くやっていけると思っていた。それなのに未来を選んだ彼に対し、残念だと告げる。
「つまらん人生だったな」
「俺の人生はつまらなくなんかない! 家族がいる幸せをあんたたちにも分けてやりたいぐらいだぜ!」

閉まりゆくエレベーターの扉を食い止めながらの台詞が、すごく格好いい。
「カレーの話すんじゃねぇよ!」という迷台詞を吐いた男と同一人物かと疑いたくなるほどです。
パンツ見えたと叫ぶ姿がかっこ悪いけどかっこいい。
靴を両手に立ち向かうひろし、「止まらないで! 早く行って!」と叫ぶみさえ、頭突きをくらわせるひまわり、己の身を挺して足止めしたシロ。
ひろし、みさえとひまわり、シロ、と家族がその場に残り脱落していく中、しんのすけは先へ進む。
皆の未来は最強の幼稚園児に託された。
……熱い。熱すぎる。
激烈な戦闘シーンではなく、誰かが重傷を負ったり命を落とすのでもない。それでも負けない緊迫感や迫力があります。
戦う力など持たない人間が頑張る……野原一家はまさに一般人代表と言えます。
転んでも転んでも七転び八起きで立ち上がり、しんのすけは走り続ける。
たとえ二人に追いついて立ちふさがったとしても、力ずくでは止められない。それなのに諦めない。
「大人になりたい」から。「きれいなおねいさんとお付き合いしたい」から。
鼻血を流しボロボロになっても走る姿が荒々しい線で描かれているのが印象的です。

装置の前まで行った二人はにおいが消えたことに気づく。
テレビで見ていた住人達も一家の奮闘によって未来を生きる気になった。
「お前の未来、返すぞ」
と告げたケンはチャコとともにタワーから飛び下りようとしますが、しんのすけの台詞と飛び立った鳩に阻まれる。
「また家族に邪魔された」
と呟くケン。
一家がくれた勇気があればやっていけると思います。

笑いと感動のバランスがとれていて、とても心地よかったです。
面白かった。

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