魔人探偵脳噛ネウロ
著者:松井優征
あらすじ:父親を殺された女子高生、桂木弥子の元にネウロと名乗る魔人が現れた。ネウロは謎を喰う魔人であり、弥子は探偵としての役割を演じることになる。

作者いわく「推理物の皮をかぶった単純娯楽漫画」。最高のB級漫画です。

こんな人にオススメ
・犯人は勘で当てる
・トリックの説明部分は大体とばす
・動機が復讐とか憎悪とか怨恨とか壮絶にドロドロしているのは食傷気味
・探偵が出かけるたびに殺人事件が起こるのは変だよね

「この中に爆弾魔がいる。……犯人はお前だ!」
「証拠は?」
「爆弾仕掛けるとこ見てました」
「じゃあその時に止めろよ!」
などなど推理物の常識を打ち破る場合もあり。
あっさり自白したシェフが上半身のみ筋骨隆々になって逃走を図ったり、放火魔が「家たん燃ええ! ビルたん燃ええ! 炎に燃え燃えしてえよおお!」と叫んだりと予想の斜め上を行く展開があるかと思えば、どうしようもない心の闇が描かれる事件もあり、ギャグからシリアスまで様々な要素が詰まっている。
動機を語り出した犯人を完全にスルーしたり、事件が起こる気配を察して飛びこんだり、推理モノのお約束を期待すると裏切られる。

良かったところ
・独特な絵
魔人ネウロの不気味さや人間の悪意が際立つ。
・構成
「あのコマはこのことを表していたのか」「ここであの台詞が出るのか」「そこでつながるのか」と驚く場面が何度もあり、伏線が活かされていた。
・人物
個性的でインパクトのある犯人に加え、性格や行動がよく練られた様々なキャラクターが説得力のある成長ぶりを見せる。
主人公の弥子は戦う力を持たぬ普通の女子高生でありながら、世界を震撼させた犯罪者を追い詰め、最強の生物兵器を倒して最悪の犯罪者を破る鍵となった。
危機からの逆転は、人々との出会いや築かれた関係によってもたらされた彼女の成長、提示されたヒントを積み重ねたロジックの集大成であり、見ごたえがある。
最初は謎にしか関心がなかった魔人ネウロも人間の可能性への興味を持ちはじめ、最終回近くでは心から認めるようになる。
・生と死
ギャグ的な要素(あかねちゃんなど)は別として、重要人物でも安易に死んだと見せかけて生きていたり、生き返ったりはしない。初期から登場した重要かつ魅力的なキャラクターであってもきっちり退場させ、物語を引き締め全体の完成度を上げるのは見事。
良い意味でキャラクターへの愛着と活躍を切り離している印象を受ける。
シビアさはバトル要素においても発揮され、奇跡の乱発や都合の良いパワーアップ、覚醒などは無い。
・終わり方
ジャンプで打ち切りや引き伸ばしも無く綺麗に終わったという点で評価せずにはいられない。
複数のストーリープランを作り、どの段階でも極力責任ある終わり方が迎えられるようにしたとのこと。
広げた風呂敷を見事に畳み切り、もっと読みたいと思いながらも納得のいく完結で、後味の良さがあった。

感想
最初は独特な絵に首をかしげ、片目だけのコンタクトレンズなど「えー、いくらなんでもそれはないだろう」と思い、これから先楽しめるのか疑いの眼で見ていました。
が、ドーピングコンソメスープでゴシカァンされました。
これでもかと心をガッチリ鷲掴みにされ、「ああ、『ネウロ』はそういう漫画なんだな!」と自分なりの楽しみ方を掴みました。
ツッコミどころさえも逆に武器にして切り込まれ、読んでいくうちにいつの間にかハマっていた。
多少無茶だと感じても「だってDCSだから」と考え、アヤ編やX編で「あれ、こういう話もあるのか」と意外に思い、次第にそういった方向性の話や、以前登場した人物、何気ない台詞が活かされる様に惹かれるように。
最初は「何でもありでかえってつまらなくなりそうだ」と苦手意識を抱いていた怪盗Xも再戦を経て好きになり、捜し続けた己の正体を見出した場面は『ネウロ』最大の見せ場だと感じました。
これが俺だと呟く彼の姿は最後の自分像によく似ています。

一番好きなエピソードは電人HAL編です。
「ふたりめのはるかわ」という予告が巻末で出た時点でどうくるのかわくわくし、春川の再登場に興奮し、犯罪の規模の大きさに圧倒されました。
世界を震撼させた犯罪者の目的や動機とは何なのか。弥子とネウロ、二人の力はどのように発揮され、試練を乗り越えるのか。
パスワード入力から回想、そして最後の美しさにただ言葉を失いました。
パスワードは、最初から解くことを諦めていたのですが、後で読み返すときちんとヒントが与えられていました。ですので、正解にたどり着けなくても挑戦すればよかったと後悔。
「悪役にも可哀想な過去があって……」な話は全体を通して控えめだっただけに、回想の率直な描写は予想外かつ感慨深かったです。
変化球が多くて惑わされますが、基本は直球、王道なのだと思いました。
魅力ある悪役の電人HALがどのように退場するのか気になっていたところ、最期の描写に「予想は裏切り期待は裏切らない」という言葉が浮かびました。

ジャンプ漫画らしくバトルの多かったシックス編ではラスボス――シックスの特異さが印象に残ります。
葛西いわく、「本当は善い奴だったんだ」みたいなラスボスばっか。「仲間を思って仲間のために悪い事した」だの「自身のトラウマを克服したいから悪い事した」だのそんな半端な悪倒しても見てる側はすっきりも何もできやしねぇ。
そう考える葛西からシックスは絶対悪だと定義されました。
「一緒にいるだけで吐き気がこみあげてきて胸クソ悪くて生きてるのも嫌になって……それでいて離れられない悪のカリスマ」と表現されています。
その言葉に相応しく、シックスは共感できない悪として描かれています。
改心しない悪役ならば葛西たちが、『ダイの大冒険』でもバーン様やミストバーンなどがいますが、彼らの魅力とは異なるベクトルです。
葛西ならば「渋かっこいい」、バーン様ならば「偉大だ……圧倒される」などと思いましたが、シックスはそういった悪役とは対照的で、嫌悪感さえ抱きます。私の悪役アンテナは反応しませんでした。
童話の中の悪魔のような存在として描かれており、「悪だけどカッコいい!」的な人物像を避けた結果として生まれたキャラクターだと思います。
一貫して描かれている点は好きなのですが、個人的には、悪役であっても自分なりの正義や信念を貫くキャラクターの方が好きです。
シックスの共感できない不気味さ、気持ち悪さがあるからこそ、葛西のような“悪”が生きるのでしょう。

一話目で謎は嫌いだと評していた弥子は、最終話で「世界には謎が満ちている」と前向きに告げるまでに成長しました。
食欲以外は普通の、本当の意味での一般人代表である彼女や、人間であることにこだわり続けた葛西の姿は、人間という種は様々な可能性を秘めているということを感じさせます。
可能性の正負両面が描かれており、一方的ではない人間肯定を上手く表しています。

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