キル・ゾーンについて
ライトノベルの感想を。
コバルト文庫には珍しい、近未来地球を舞台とした戦争もの。
傭兵部隊に所属するキャッスル曹長が主人公です。
戦争の悲惨さ等を克明に描くような作風ではない。
読んだことのなかったジャンルなので警戒しながら読みましたが、戦闘描写などは過激でないため読めました。

人物について
レジーナ・キャッスル
軍隊モノの小説が好きな父が図書館から借りてくるきっかけとなったであろう主人公です。
軍服を着た二人組の表紙が父の目に留まったのでしょうが、不敵な笑みを浮かべ銃を握っている彼女がひとたびドレスを着れば……「女装」と呼ばれます。
格闘術、特にナイフを使う技術は基地最強。鬼曹長と呼ばれ、新兵をビシバシしごきます。
『流血女神伝』もそうですが、主人公がたくましい。

ラファエル(アロイス・アフォルター)
子どもっぽく、明るく熱血な少年。
食欲旺盛でバナナが大好き。腹立つ相手にバナナの皮によるトラップを仕掛けるくらい好き。
そんな彼は、自分が人間でないことを知り苦悩することになります。完成された強化人間(ユーベルメンシュ)として、極めて優秀な兵器として戦うことになりますが、兵器になりきれないまま精神的に傷つき、追い詰められ、苦しむことに。

ユージィン・アフォルター
人当たりがよく温和な人物だと思われているが、穏やかな微笑の下には冷酷な野心家の顔が隠されている。さらに奥には……。
国民から絶大な支持を受けていますが、本人は「自分では何も変えようとせず誰かが変えてくれるのを待っているだけ」と軽蔑しています。それはヴィクトールも同じですが、ユージィンは侮蔑を巧みに隠して人気を徹底的に利用します。
彼は精神的に強い。
特殊な能力は持っていますが、体は普通の人間であるため大きな負担を強いられる。そのため簡単には使えない。
並はずれた観察眼で考えを察したり話術で心の空隙をついたりといった巧みな方法で味方を増やし、敵を破滅させていきます。
幼い頃から隙あらば自分を乗っ取ろうとする亡霊と戦い、周囲が敵だらけの状況から脱し、のし上がり、国家元首や財閥総帥といった頂点まで上り詰めた男。
この人には悪役の風格があります。
自身をも駒の一つと見なし、頂点まで駆け上る。肉体的に優れている強化人間を相手にしても優位に立つ。
最大の好敵手であるヴィクトールが死んで自身の最大の望みが潰えても、彼らしく振舞いました。
強化人間たちが多数登場する中で、人間としての強さを見せたキャラクターの一人です。

ちなみに、彼の中には子孫に寄生してきた精神体がいて、中途半端な存在である身を忌み嫌っています。
性別は元から無く、強靭な肉体を得ればすべてが解決すると思いこみ、強化人間の器を得ようとしています。

ヴィクトール・クリューガー
偉そう。
だがそれがいい。
宿敵ユージィンに復讐するために生涯を捧げた。
最終巻では見せ場を持っていく勢いで復讐を果たす。

マクシミリアン・シュレンドルフ
金髪碧眼超絶美形容姿端麗頭脳明晰と漢字乱舞。強化人間の中でも特に頑強な肉体を持ち、サーベルを持たせれば鬼に金棒、冷血(コールドブラッド)と呼ばれる怜悧な男。
最初は「やたら強くて天才で一目見たら男女問わず時が止まるくらい顔がいい? 何だこいつ」と思ってましたが、戦闘時とぼんやりしている時のギャップで許せる。
階段から転がり落ち、壁に頭をぶつけ、歯磨き粉で顔を洗い、レジャーランドに行ったら絶叫マシンでふらふらになり、ぐったりとしてウサギベンチに座り……。
「美形なのでご都合主義的に活躍するんだろ」と思いきや、登場したと思ったらいきなり脇腹撃たれて意識を失う。おい。
全身にガラスの破片を突き立てられ(おまけに貫通し)たり、背中を思いっきり抉られぐりぐり踏まれたり、サドな軍人から椅子ごと殴り倒されて顔を踏まれたり、強化人間でなければ何度も死んでる。
かなり惨い死に方をしますが、満ち足りた笑みを浮かべていたので救われます。
一番頭が痛くなったのは、恋愛に縁のない彼が親しみやすい女性と出会い、少しずつ交流を深め、無口なはずの彼がある程度会話するようになり、休日にレジャーランドまで行ったのに、正体は上司の命を狙うため近づいた暗殺者だったと知った時が……。
彼女から腹と胸を銃で撃ち抜かれますが、強化人間であるためこの程度では死なない。上司の命優先であるためサーベルで容赦なく刺します。
ようやく春が来たかと暖かい気持ちで読み進めたらこれかよ。

ユージィンの野心家の顔のさらに奥の闇を覗き、ぼんやりと共感した男。
無口で冷静なため他人からは距離を置かれています。
「兄のエーリヒは人間らしくていいやつなのにマックスは不気味だ」と知人から散々陰口を叩かれ、兄以外の家族からも嫌悪と困惑の目を向けられます。
本当は優しいところもあるのですが、冷酷さを見せる場合が圧倒的に多いので認識が食い違っています。

総合
人間と同じ外見ですが、遥かに強い力を持つ強化人間たちへの反応が生々しい。
国の裏側で諜報活動等をやっていた頃
→不気味、何を企んでるかわからない
戦争に新兵器として投入、アクション映画のように華々しく活躍する様が宣伝される
→英雄だ! 頑張ってください!
消耗が激しく、過労になったリーダーのラファエルが療養
→なぜ戦わない、もっと(我々のために)戦え!
対抗策が練られてきたため他の部隊と連携させるか出撃の回数を減らしてくれと要求
→上層部は使い捨てる気満々
戦況が膠着、泥沼化
→何やってる!?
元首が暴走、もしかすると矛先が自分たちに向かうかもしれない
→化け物どもめ、死ね! 始末するんだ! 殺せ!

……やりきれない気持ちになりました。
困った時は英雄だ救世主だと持ち上げ、都合が悪くなると掌を返す態度をユージィンやヴィクトールは侮蔑しています。
優しい心の持ち主であるラファエルは自分が人間でないことに苦悩します。
英雄として過剰なほどに期待され、完成された強化人間としての力を使えば戦争を早く終わらせることができると信じて身を投じますが、兵器として生ききれずに精神的にも身体的にも追い詰められ……。

また、最初は「上からの命令に従うだけ」「自分は特別な力を持った道具」と考えていた強化人間は他人に関心がなく、無機質な印象を与える態度だったのですが、前向きで感情表現豊かなラファエルの影響を受け、次第に感情を見せるようになります。
人間らしさに目覚めてめでたしめでたしかと思いきや、以前は命令だからと割り切っていたことに苦痛を感じるようになり、過酷な状況に苦しむことに。
優秀な強化人間の一人、かつては機械のように冷静に無駄なく行動していた相手も同僚たちが命を落とす状況に絶望し、精神の均衡を崩し、ラファエルを憎悪。
「あなたは人間らしく生きる方が幸せだと思ったのでしょうが、目覚めない方がよかった」と攻撃してきます。
人間らしさとは何なのか、暖かい感情に目覚めればイコール幸せになるのか、疑問に思いました。
結局、貴族的な階級の者は除き、強化人間は次々と死んでいきます。
容赦ない。

主人公のキャッスルも「念じるだけで心臓を止めたり、簡単に都市を滅ぼせる相手のことを怖くないって断言できる?」と尋ねられ、即答できず言葉に詰まります。
それでもラファエルを好きになった彼女は国どころか星を飛び出して追いかけ、最終巻では「結婚してほしいんだけど」と言って「はあ!?」と叫ばれる。
ムードないな。
一人の人間としてたくましく生きていきます。

その他へ戻る


トップ アイコン