今回は藤田和日郎著『邪眼は月輪に飛ぶ』と『黒博物館スプリンガルド』の感想を。

『邪眼は月輪に飛ぶ』
その眼で見た相手をすべて殺すフクロウ、ミネルヴァに立ち向かうため、かつて撃ち落とした経験のある猟師の鵜平やデルタフォースのマイクらが立ち向かいます。
友人いわく「鵜平さんかわいいよ鵜平さん」らしい。
まっすぐな少年だけでなく渋い老人を主人公にしても光る。外見を裏切らない貫禄があります。
鵜平やマイクももちろん魅力的ですが、ミネルヴァが大好きです。
ミネルヴァかわいいよミネルヴァ。
白面の者など、倒されねばならない敵の悲しさを描くのが上手い。
不幸自慢になるほどくどくはなく、倒される敵としての立場は保ったまま、あくまでにおわせる程度です。
一話目のミネルヴァに見られて大勢の人間が命を落とす場面にビビりました。
こんな敵どうやって葬るんだよ、と。

※ここからはネタバレを含みます。
文だけでは伝えるのが難しいですが、印象に残った台詞を。
――その掟はひとつだけ。<ミネルヴァ>に見られた者はみな死ぬ。
怖い。
「おのれらは何で獲物を畏れん? 何で、自然の前でかしこまれねえんだ?」
山で神様に獲物を授けてもらうという意識があるため、自分の腕前と銃の性能に溺れ、獲物を馬鹿にした男たちへの発言。
「ウヘイ、なんとかしてくれえ!」
「犬でも何でも、オレがなってやる!」

言葉とは反対に凛々しい表情。
それを聞いてにやりと笑う鵜平の笑みが素敵。
犬呼ばわりされて「わん」と律義に答えるマイク、可愛げがあります。
――邪眼のフクロウは、本能的にうっすら危険を感じたかもしれん。じゃが、彼は追いかけるのをやめんかった。やめないわけがあるのじゃった。
ミネルヴァはある病院の石造りのフクロウの後ろに巣を作っていました。ミネルヴァを引き離すため鵜平とマイクは石像を抱えて車で逃走します。
同族をも殺してしまうミネルヴァですが、石像のフクロウは見られても死なない。そのため、唯一の恋人だと見なしています。
想いは常に一方通行だったのか……。
「ウヘイ、死なさんぞ!」
娘の輪が涙とともに叫ぶ。熱い。
「獣を狩る者は獣になんねばな」
渋い! と思ったら直後にマイクから呼び止められ、「犬めが何しとる!?」と言います。何やってんだよー、と言いたげな表情がナイス。
――何が来ても、もうこのフクロウは渡さん。この大切なフクロウを奪われて彼はアタマにきていたんじゃろうな。
禍々しいとしか思えなかったミネルヴァの境遇に少し心が痛みます。
「邪眼、邪眼よ。おまえは子供が、欲しかったんだろ。オレにゃ、おるんだぜ」
喪った妻に胸の内で呼びかけ、弾丸を放つ鵜平。
「だから、邪眼。キサマの負けよ」
アシスタントの方々がトーン貼りやインクを散らすことを拒否したのも納得。
「ああ、こわいよ。こわい目が、くるよ」
人間が世界にとっての「邪眼」になる日がくるかもしれない。
そんなことが起こらないよう願いつつ、幕を閉じます。

『黒博物館スプリンガルド』
ヴィクトリア朝初期のロンドンを舞台に、バネ足ジャックと呼ばれる怪人が跳ぶ!
一時期犯人と目されていた放蕩貴族のウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドと熱血警部のジェイムズ・ロッケンフィールドの双方が男前。
まず学芸員さんに惹かれましたが、それはおいといて。
陰のある青年主人公もいいなあ。
装丁が雰囲気出てます。
活劇に胸が熱くなる。
「目のハシをかすめたネズミを俺が勝手に蹴っとばしただけだ。忘れっちまいな」
『からくりサーカス』の鳴海を連想しました。ロッケンフィールドという名は『からくりサーカス』の中で登場しています。
「面白いから聞いてやるよ、犬っころ」
「面白かったぜ」

主人公とは思えないゆがんだ表情。どこからどう見ても悪役顔です。それが……。
「マーガレット」
ワガママ放題の貴族様なのに、とあるメイドには弱いウォルター。
赤面し、冷や汗を流し、すっかり情けない表情になっています。屈強な大男相手に喧嘩を吹っかけてぶちのめすような性根の持ち主なのに、惚れた女にゃからきし弱い。
「我は闇に跳んで現れる暗黒の支配者なるぞ! なーんてな!」
「その実に見事なバネ足がなければ君はただの変態だからな」

すごくもっともな指摘が。
『お前が幸せの極みで最後に触れるのは男の甘い唇ではなく……この真っ赤に焼け爛れた爪だ。マァァァガレット』
夢に出そうな恐ろしい姿と言葉。怪人の言葉を知らされたウォルターが鬼気迫る表情へと豹変。
「ここから先は敬虔で善良なる者以外立ち入り禁止だ。……オレたちは入れない」
マーガレットの結婚式が行われている教会の前に立ち、殺人鬼の行く手を阻むウォルター。
マーガレットとように光に照らされた道を歩いてはいない。彼女の傍らでともに歩むのは自分ではない……それを自覚しての台詞なのでしょう。
「お前なんかがオレになれるワケねえだろ」
風格が違います。
「やっと捕まえたぜ。三年前のバネ足ジャック!」
「仕事熱心だな……棍棒野郎」

異聞での警視庁の友人というのはロッケンフィールドのことでしょうか。
「オレは次の悪戯を考えてたんだ……。今度はおかしな女なんかと……出会わない遊びだ」
ウォルター……。

ここからは異聞のマザア・グウス。
「標本だろうが写真だろうがそこに『最高』は留められない。人間にとっての『最高』ってヤツは『変わっていく』ってコトだろうからな」
ウォルターも変わりました。
「くだらないな、いいじゃないか」
魔王のようなイイ笑顔。
スプリンガルドは終了しても黒博物館の話そのものは終わっていないので、気になります。

その他へ戻る


トップ アイコン