からくり最終幕〜闇色の血〜

20巻の最大の見せ場はルシールの復讐と退場です。
フランシーヌ人形や最古の四人のもとにたどり着いたしろがねたち。
ズタズタにされた鳴海も戦おうとしますが、これ以上傷を負っては死んでしまうためトーアが止めます。
君のおかげで我々はほぼ無傷で戦える、君は死ぬべきではないと語るトーアをロッケンフィールドやダール、ティンババティは口々に否定します。
「私を見くびらないでくれ給え。私は、その男に助けてもらった覚えはないな」
「冗談じゃねえ、そいつに役割をくれてやったのさ」
「単なる時間稼ぎの役割をな」
「もう君は使えない。役立たずは死んでもいいが、邪魔だけはしないでくれ」
見損なったよロッケンフィールドさん!

鳴海を放っといて最古の四人と戦い始めます。
ひどいことを言われても、指をくわえて見ているよりはとフランシーヌ人形に近づこうとする鳴海。
それを発見したコロンビーヌが襲いかかり――ダール、ロッケンフィールド、ティンババティのマリオネットに阻まれる!
先ほどの暴言も鳴海が無理に戦うことを止めるためだった。
鳴海が命をかけて戦う中で彼らの想いは一つになっていった。サブタイトルは「共鳴」。まさに皆の心が一つになっています。
みんなが自分を護ってくれたことに驚愕する鳴海は、最古の四人の相手を頼みます。
「オレはフランシーヌ人形を、倒す!」
その叫びにしろがねたちは確信する。
ナルミ(あいつ)なら、やれる!!)
うおおおお、熱い!

敵を倒し、強さを証明することばかり考えていたはずのしろがね−Oの一人も「ひとくくりにしないでよ」と素敵な笑みを浮かべ、自分の名を改めて告げます。
アルレッキーノの足止めを図った彼女――リィナは力及ばず焼き尽くされてしまいました。
リィナ……。
アルレッキーノは大好きだが、彼女を一瞬で消し炭にしたことは忘れない。
いえ、悪役としてはこの上なく正しいですが。強敵だったキャラクターが主人公側につく場合、仲間が殺されていないから、人間を殺す場面を直接見ていないから、ということで何となく済ませては虫がいいですし。
そのまま、仲間を殺され怒りに燃える鳴海vsアルレッキーノに。
気功は通じないはずなのに鳴海の拳にダメージを受け、よろめき、階段の手すりにもたれかかったアルレッキーノはなぜそこまで強くなったのか尋ねる。
「人間は色々なモンを背負いこんで、強くなるんだ!」
破壊されることを予想し、主の名を呟きながら眼を見開いたアルレッキーノですが、とうとう限界に達した鳴海はあと一息というところで倒れます。
気合や闘志ではどうにもならぬほど傷つき、血を流した。とっくに肉体は限界を超えていたのを精神力で無理矢理補っていたが、とどめを刺す直前で倒れてしまうという過酷な展開に。
生命力の強いしろがねでも「寝たら平気、ケロッとしてお目覚め」などという便利スキルはないため、治療を施さなければ死んでしまう。
ダールやトーアも傷つき、無数の下級人形たちも現れ、もはや絶体絶命。
最期を迎える覚悟をしたロッケンフィールドですが、そこに頼もしすぎる助っ人が!

「ご主人様は……末期の懺悔を終えたかね」
「死刑執行人は、最後に入場するものなのさ」

最古のしろがね、ルシール降臨。
タイミングが良すぎるけれど全然気にならず、「よくぞ来てくれた!」と思える。台詞も燃える。
ドットーレがゆがんだ笑みを浮かべて「おまえの子供の血は赤かったぜえ、ルシィィル」と挑発しますが、まったく乗らない。
この風格、この威厳、まるで悪役のようだ。なぜか老人姿のバーン様を連想します。
若い頃の姿ならば真大魔王から口説かれたかもしれません。
「あんたは好み(タイプ)じゃないよ」とか「淑女を口説くならもっと丁重にね」とか「千年後に出直してきな」とか言ってフりそうですが。
ドットーレも憎まれ役を貫いてくれます。

ルシールが繰り出した切り札はフランシーヌ人形そっくりの人形。彼女が「ひかえよ」と命じたため、自動人形たちは動けなくなります。
邪魔が入らない状況にしてから彼女の復讐劇が幕を開ける。
何とか立ち上がることだけできたドットーレを言葉で散々いたぶる。
「へええ、あんたは動けるんだね。ま、いいけど」
「ドットーレあんたさ、フランシーヌ様に忠誠心が足りないんじゃないかえ?」
「ルシィィィル!」

ブチ切れるドットーレに対しルシールはどこ吹く風といった顔。超クール。
サーベルで服を切り裂き朗らかに笑う。
「フランシーヌ様にいただいた服をよくもォオォオ〜!」
「おほほほ、あら失礼。でもそんな襤褸、着替えた方がよくってよ」
この挑発のレベルの高さ、見習いたい。
最古を破壊する好機ですが、しろがねたちはルシールの――ルシールだけの戦いであることを感じ、手を出すことはしない。
「フランシーヌなど自分に関係無い」と思えば、偽物の人形の命令に縛られず、自由に動けるようになる。
だが、フランシーヌ人形を笑わせるために生まれた自動人形にとって、それは自分の存在理由を否定することに他ならない。
ふざけるなと激高し、ドットーレは腕をのばして攻撃。
己を案じるミンシアにルシールは娘の姿を重ねます。
体内に柔らかい石を入れられ、自動人形たちをおびき寄せるエサにさせられ、ずっと戦い続けたアンジェリーナ。
しろがねである以上ルシールは優しく接することができず「しっかりなさい!」と叱っていた。
実の娘の背負った過酷な運命を知りながら厳しく接していた。
ミンシアに「お前は私のことを嫌いなはずさ」と言うルシールはまるで娘に語りかけているかのようです。
(私を嫌っておくれ。アンジェリーナ)
という独白がもう……。
ミンシアは涙をこぼしながら「キライなわけないでしょ、クソババア!」と叫び、死なないでと懇願。
ここまで感情のこもった「クソババア」は初めて見た。

それを聞いたルシールは迷いが晴れたように顔を上げ、言葉を叩きつける!
「さあドットーレ、決心はついたかえ! 生命の水で人間になりたいだなんて、笑わせるでないよ! フランシーヌの永遠の歯車奴隷が!」
とうとうドットーレの怒りが頂点に達し、フランシーヌなど己に関係無いと叫んでルシールに致命傷を与える。
己を闇色の血が流れていると評し人間らしさなどまるで無いと考えていた彼女ですが、溢れたのは、熱く温かい真紅の血でした。
得意げなドットーレの頬に手を当て、お馬鹿さん呼ばわりするルシールが素敵。
「おまえはもう……おしまいだよ」
存在理由を棄ててしまったドットーレは自壊。
ルシールは絶望という人間の心を最期の贈り物として渡した。
「おまえは……己が機巧を動かす意味を手放したのだ……ドットーレ。君はおしまいだ」
と告げるアルレッキーノの顔が怖い。

ミンシアに画用紙とクレヨンについて語るところでは『ギャラリーフェイク』という漫画の一場面を連想しました。
生まれた時、人は白い画用紙と色とりどりのクレヨンを渡され何でも描いていいよと言われる。何を描こうか考えているうちにたっぷりあったはずの時間は過ぎていき、描きたいものが決まった時にはもう帰る時間に。
彼女は紙の端を黒く塗りつぶすだけだった。ウサギを描きたかったと気付いた時には白いところはすべて塗りつぶしていた。「私には、なるんじゃないよ」というメッセージに復讐のために生きることの辛さや平凡な人生への思いが詰まっています。

夢か現かわからぬ世界で、今までずっと白目だったルシールが最後に銀色の眼を見せて鳴海に微笑み、その後ろに昔の姿が映る。
憎むことに時間を使ってはならないと告げ、去っていきます。
Au revoir、ルシール。
最古のしろがね、ルシール・ベルヌイユ、退場。
魅力的なキャラで退場が惜しまれますが、ご都合主義的に助からなくてホッとする気持ちも確かです。命を燃やし眩しく生き切った、十分すぎるほど生き様が描かれた人物なのですから、「実は生きてた」「死んだけど生き返った」「ピンチにタイミングよく助けに」なんてされると……。
とにかく、彼女の復讐劇は退場まで含めて物語を最高に盛り上げてくれました。

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